大人は涙を流さないのか
大学生活が終わることは前の記事に書いたが、現在の私は4年間住んだ部屋から引っ越すべく、毎日荷造りに追われている。
引越し業者と連絡をとり、管理会社に連絡し、大家さんの奥さんとも話をした。
「もう4年経ったの?早いねえ。春からも頑張ってね。元気でね」
そんな言葉をかけられるたびに涙が浮かぶ。
思い返すと4年前、私(適当人間)はろくに内見もせず(できなかったのもある)
一刻も早く東京に住み、遊びたくて、候補を探すこともなくこの部屋に決~めた!とあっさり部屋を決めてしまった。
なんだかよくわからないままに大家さんに挨拶すると、大家さんは3世帯で最上階に住んでいることがわかった。自分の祖父母と年の変わらない大家さん夫婦と、自分の父母と年の変わらない娘さん夫婦、そして私よりいくつか年上のお孫さん。
こんな土地にマンションを持つなんてお金持ちなんだなあ、、、と下世話なことをぼうっと考える私に
「遠くからよくきたね。東京での生活は不安だと思うけれど、ここを我が家だと思って、私を第2のお母さんだと思って暮らしてね。わからないことは何でも聞いて!大学生活楽しみだね!」
と大家さんの娘さんが言葉をかけてくれた。魔女の宅急便に出てくるパン屋のおばさんを思い出した。明るくて温かくて、頼りになる女性という印象だった。
それから私は、こんな素敵な大家さん一家に追い出されないように気をつけよう!と心に決め、初めての一人暮らしをスタートしたのだった。
入学式の日には初めてのスーツに着られ、慣れないパンプスでバタバタとマンションを飛び出した。(入学式も遅刻ギリギリだった)
エントランスを出たところで大家さんとばったり出会って
「あれ、今日が入学式?いいねえ。いってらっしゃい」
とあたたかな言葉をかけてくれた。大家さんは優しそうなおじいさんである。
2年生のとき、体調を崩し精神的にも沈み、大学もやめたくて仕方ない時期があった。ご飯もろくに食べられず、出席点欲しさになんとか身体を大学に持っていく日々の中で、久々に大家さんと出くわすことがあった。
「元気にやっている?いってらっしゃい」
大家さんの「いってらっしゃい」には不思議な力があった。
一人暮らしになってから聞くことのなくなった「いってらっしゃい」
もしかしたら実家にいたときも「いってきます」「いってらっしゃい」のやりとりはしていなかったかもしれない。
何気ない挨拶にしかすぎないが、温かなスープのように心と身体に効く力をもった言葉であると気づいた。
4年生になると、朝、マンション前にデイサービスのマイクロバスが止まっていることが多くなった。
大家さんはずいぶんと老け込み、私のことも忘れてしまったようだ。挨拶をしても不思議そうな顔をされる。
風が一吹きしたように、さらっと終わってしまった大学4年間だが、確かに4年という月日は経過していて、自分を取り巻く環境を少しずつ変えていたのだ。
物思いに耽るには早いかもしれないが、2月現在の私は大変おセンチである。
部屋に落ちているプリント1枚にも思い出が詰まっているようで、片付けが思うように進まない。
カーテンを開け、窓外の東京の景色を見ても涙は浮かぶし、特にお風呂では嗚咽が漏れるほど泣いてしまう。今このブログを書きながらも涙を流し、ティッシュを10枚消費した。
22歳になっても子供のように涙が枯れないことに自分でも驚いている。
大人は涙を流さないのだとしたら、私はまだ大人になれていない。
いつ「大人」になれるのだろうと考える発想こそが子どもそのもので自分でも嫌になる。
春から社会人。周りの大人は「おめでとう」と声をかけてくれる。
なにがおめでたいのか私にはわからない。
パラシュートの準備ができていないのに飛行機から押し出されるような気分である。
つまりは不安でたまらないのだ。
大人というか人間として不完全なままの私からは涙があふれる。
感情や涙をコントロールする機能ですら満足に働いてないじゃないのよ、となにかの声が聞こえる。
涙が浮かぶたびに、自分の未熟さが見えるようで怖くなる。
実は大人も涙を流すんだよ、って誰かに言われたい。安心したい。
大人は涙を流すのだろうか?
引っ越しの手伝いのために部屋を訪れた母の前でも、あることがきっかけで大泣きしてしまった。母もドン引きして傍らに立ち尽くしていた。
自分でもドン引きした。
「いつまで学生気分でいるんだ」「もう子どもじゃないんだぞ」
入社して言われそうな言葉ワンツー。先に予想しておけばDAYONE★と流せるような気がして自分の心を抉る言葉を探しておく。で、傷つく。アホか。
こうしてブログとして文字に起こすと、自分の心が中学生以降成長していないように感じられて余計に怖くなった。頭ではなく手を動かさねば引っ越し準備は終わらない。と、いうことで荷造りに戻るために今日はここらでやめまする。
今は、部屋中に舞うホコリのせいで涙が出るのだと信じて。